2012年8月22日水曜日

2012年8月22日

以下、僕の2012118日朝日新聞Webronza論考のコピーです。もう時効なので、個人のブログなどに掲載してもよいとの許可を頂きました。

英語の苦手なあなた、騙されてませんか?

グローバル化という言葉がいたるところで叫ばれている。使える英語力を身につけるための英語教材の宣伝を目にしない日はない。英語でのコミュニケーションスキルの必要性が喧伝されているわけだが、24年以上米国で暮らし、09年に帰国した筆者から見ると、英語力が必要な理由はもう一つあると考える。それは、「騙されない」ためである。また「島国的イデオロギー=島国根性」の餌食にならないためでもある。
インターネットで情報検索する場合、日本語で検索すると、ヒットする情報のほとんどは日本国内の情報に限定される。したがって、日本国内の情報「のみ」が世界全体の情報であると錯覚・誤解してしまいがちである。本や雑誌でも、日本語で書かれたもののみの情報に頼ると間違った世界観に支配されかねない。
また、日本語で書かれた文章を読むのはほとんど日本人(あるいは日本語のできる外国人)のみであるため、日本人にとって都合のよい情報のみ発信しても、海外からはほとんど批判されない(海外の一般大衆は読んでないのだから、批判のしようがない)。したがって、日本人の多くはそのデマ情報に騙されてしまう。
筆者のよく知る科学の分野でいくつか例をあげてみよう。

 ・ 国内のメディアで「XX大学(日本の大学)のS教授のグループが世界で初めてXXを発見(解明)した」という報道をよくみる。しかし、「世界で初めて」ではなく「日本で初めて」と記述するほうが適切である場合が頻繁にみうけられる。そもそも、多くの国際学術誌(NatureScience、など)では、論文で「This is the first time to show …(これがXXを最初に示した論文である)」といった記述をしてはならない、という規則がある。(その理由を入れていただけますか?「最初」かどうかは簡単にはわからないから、ということでしょうか?)それにも関わらず、日本国内では「世界で初めて」という報道が氾濫している。

 ・ 同様に、「世界最先端」という報道・記述も氾濫している。日本語の新聞・雑誌・書籍の中には科学研究の説明に「世界最先端」という記述が頻繁にみうけられる。しかし、実際には、それらのいくつかは欧米諸国ではすでに大衆レベルの研究になっているものである。したがって、日本語のみの情報に支配されると、世界レベルでは大衆研究であるものを最先端の研究だと勘違いしてしまう。これは、特に研究者の卵である「英語の不得意な」日本の学生さんたちのキャリアに致命的な影響を与える。日本国内でのみ「最先端」の研究を世界最先端と勘違いする「井の中の蛙」的科学者が量産されることになる。日本では、「井の中の蛙」的科学者でも、研究費を獲得し、それなりの名声を得ることのできる現実がある。しかし、早晩そのような時代は終わるだろう。

 ・ 科学の様々な分野で、英語の教科書が日本語訳され、それが日本の大学・大学院でよく使われている。筆者が読んでみたこれら多くの教科書では、英語で書かれた原本の科学的ニュアンスがかなり歪曲されて記述されている。数式や化学式は問題ないのだが、生物学や医学の分野では、原本に英語で記述されている基本概念などが日本語訳では上手く伝えられていない場合がかなり見受けられる。したがって、筆者は日本語訳の教科書はあまり薦めない。

科学の世界以外でも、上記のような例は日本国内に氾濫している。海外ではすでに人気の落ちた商品をあたかも大人気商品のように称える広告、欧米では数年前にすでに廃れた流行をいかにも海外で最先端の流行のように称える広告、海外ではかなりマイナーな人物をいかにも国際的に超有名人物であるかのように称える宣伝、海外ではマイナーな報道しかなかった日本人のイベント(例えばコンサートなど)を「海外でも大盛況」などともてはやす国内報道、などなど数え切れない。日本語のみの情報に支配されてしまい、知らず知らずのうちに、間違った世界観、井の中の蛙的考え方、歪曲された事実に溢れた生活を強いられている国民は多くいるのではないかと筆者は感じる。
日本人の多くはそれで満足しているのかもしれない。しかし、いわゆる「島国根性」はこうやって育まれるのだろう。グローバル化の必要性を認識するなら、この状況を変える必要があると思う。
もちろん、英語以外の外国語もできるようになると、世界観はさらに広がる。世界は多様な文化、宗教、習慣、風習、伝統、主張、テクノロジー、学問で溢れている。それらを理解し、グローバルな社会において責任ある「つながる世界市民」として行動するには日本語のみならず、英語を含む外国語の習得は必要不可欠ではないだろうか?