2013年2月26日火曜日

2013年2月26日

以下、僕の2012年5月25日の朝日新聞Webronzaの論考。6ヶ月以上経っているので、朝日新聞の許可を得て、ここにコピーを掲載します。

日本企業よ、宇宙開発産業へ参入せよ

2012521日、金環日食」。
 ツイッターでの膨大な数のつぶやき、フェイスブックで「いいね!」の連発、国内テレビ各局での実況中継など、日本中が大騒ぎだった。この歴史的な天体ショーは、米国ABCニュースなどのメディアでも“Ring of Fire(炎の環)”と報道された。また、2012518日には韓国の衛星を載せた日本のH2Aロケットが種子島宇宙センターから打ち上げられた。日本としては初の海外衛星の商用打ち上げ成功である。2012522日には、世界初の商業軌道輸送サービス用宇宙船(無人)“ドラゴン(Dragon)”が、米国フロリダ州ケープ・カナベラルから打ち上げられた。
いよいよ、宇宙開発産業の本格的な競争の口火が切られたのである。筆者は、この産業の活性化と発展こそが、日本を含む世界経済の打開策のひとつであると確信している。
 かつて、宇宙開発は米国やロシアなどに代表されるように、国家が担うものだった。しかし、1990年代から、将来の来たるべき宇宙時代に向けて米国でいくつかの民間企業が起業された。今では、これらの民間企業が、カリフォルニア州のロサンジェルスから北へ144kmほどいった砂漠の町、モハビ(Mojave)(図1)に集まってきている。IT がシリコンバレーなら、宇宙開発産業はモハビとも言われる状況だ。現在、モハビ近辺を本拠地とする宇宙開発関連の民間企業の例を表1に示す。
 SpaceXVirgin GalacticXCORSpace Adventure(モハビではなく、バージニア州にある)、などは、宇宙観光を産業化しようとしている。Virgin Galacticでは既に、宇宙観光船の乗客の予約を取っており、その中には、米国の有名俳優であるアシュトン・カッチャー、アンジェリナ・ジョーリー、ブラッド・ピット、トム・ハンクスらが含まれている。SpaceXは今後1020年の間に火星への観光用宇宙船の打ち上げを公言している。また、30年後には再利用可能な宇宙船で火星まで行き来し、乗客ひとりあたり約50万ドル(約4000万円)での観光実現をも公言している(これは、多くの東京都内のマンション購入額より安い)。
 現在、米航空宇宙局(NASA)は宇宙飛行士ひとりを国際宇宙ステーションへソユーズで運ぶのにロシアへ約60億ドル(約48億円)支払っている。しかし、民間企業であれば、宇宙船製造などを含む様々なレベルでの効率化を図ることにより、約20億ドル(約16億円)で運べると試算されている。つまり、民間企業のほうが安く、かつ効率よく宇宙開発が可能であるということである。
 以上の実情から、筆者は20年~50年 以内に民間企業による宇宙開発産業のブームが確実にやって来ると信じる。その時のために、日本は材料、燃料、システム工学、宇宙医学、地質学、建築工学、 など様々な分野で大きな貢献ができると筆者は考える。そのためには、今すぐこれらの分野の研究開発に国また日本企業は投資すべきである。国の産業、経済の 活性化に必ずつながる。
 鉄腕アトムという故手塚治虫氏の漫画があった(1952年~1968年まで「少年」に連載。1963年~1966年にはテレビ番組化)。この漫画のおかげで、当時の多くの子供達が科学に興味をもった。その世代の人達は、その後日本の科学技術(特にロボット工学の分野)を世界のトップレベルに押し上げてきた。筆者は、民間による「宇宙開発産業」の開拓期に日本が積極的に関わり、新たな産業の創設、そしてその発展は、必ずや日本そして世界全体を活気つけ、明るい夢のある国つくりにつながると確信している。